「仕事が絶望的につまらない」「灰になっていく感覚」大企業あるあるの悩みを複雑系モデルで紐解いてみる
「仕事が絶望的につまらない」「灰になっていく感覚」 大企業あるあるに共感の声も…転職組からは忠告
「大企業特有の悩み」について書かれた上記記事で具体的に挙げられている「大企業特有の悩み」の事例は以下です。
- 「仕事が絶望的につまらない」
- 「灰になっていくような感覚」
- 「毎日同じことを考えている」「刺激が欲しい」
筆者は20年間エンジニアとして大企業と中小企業の両方で半分ずつ働いており、現場とマネージャも両方経験しています。
若手の頃に小さな企業で数年間ベンチャー精神を味わったこともあり、4つの企業での仕事を経験しています。
この「大企業特有の悩み」について中立的な視点から、複雑系モデルに当てはめて考察をしたいと思います。
「大企業特有の悩み」実際はどうか?
上記で上げた「大企業特有の悩み」の事例、私はとても共感が強かったです。
大企業で長期間悩んでいる人って、本当に「灰のようにちょっとずつ、すり減っていく」感覚なんですよね。
5年後くらいに振り替えると、「あれ?何か気力が減ってる?」と気づきます。
社内の誰が悪いわけでも無いんです。
毎日出社して頑張っていたら、身長が1年に1 ㎝ずつ縮まっていた・・みたいな感覚です。
こういった不確実な現象は「複雑系」と呼ばれるモデルで説明出来る事があり、極限までモデル化すると最小単位である因子は驚くほど少数の些細な出来事や行動傾向で説明できる事があります。
下記の書籍を読むと複雑系や、複雑系によって説明できる社会現象の仕組みについて、理解が進みます。
【参考書籍】複雑で単純な世界: 不確実なできごとを複雑系で予測する
大企業の悩みは複雑系?
本題の大企業の悩みは、複雑系か?
結論、複雑系と言って良いと考えます。
複雑系モデルとみなす「8個の条件」
残念ながら日本の大企業における現象を紐解くような複雑系モデルはまだ見た事がありません。
しかし上記の書籍によると、複雑系研究者の間では複雑系と見なすための「8個の条件」があります。
- その系に、相互作用をしている多数の要素、すなわち「エージェント」の集団が含まれていること
- 系の構成要素が記憶、すなわち「フィードバック」の影響を受けていること
- 系の構成要素が過去の結果にもとづいて戦略を変更できること
- 一般には「開いた」系であること(外部環境の影響を受けること)
- 「生きている」ように見える系であること(多数のエージェントが相互作用で動くことで生態学現象が観測できること)
- 「創発現象」が見られる系で、その現象が概して予想外であり、極端になる場合があること
- 「創発現象」が「見えざる手」、すなわち全体を制御する中心的な存在なしで生じること
- 秩序ある挙動と無秩序な挙動の複雑な組み合わせを示す系であること
日本の大企業で起きている現象は、この「8個の条件」に当てはまっています。
例えば、社員1人1人は複雑系において「エージェント」に当たります。条件①~③は満たしている事が容易にわかると思います。
条件④は社外からの様々な刺激と捉えることから、条件⑤は多数の社員が集まる事で社内で色々な活動が不確実に発生・実行される事から、満たします。
条件⑥「創発現象」は、具体的には、真面目で忠実だと思っていた社員が「会社を辞める」「休業する」「犯罪を犯す」等が考えられます。
条件⑦⑧については後述しますが、満たすと考えています。
つまり、日本の大企業で起きている現象は複雑系と捉えても良いと言えます。
「エージェント」に影響を与える因子
複雑系と捉えた「エージェント」に影響を与える因子が何かを考えてみます。
実際に私の多数の知り合いやSNSで出てくる大企業社員の声としては、下記のような物があります。
- 「細分化された仕事ばかりで個人のスキル成長が想像できない」
- 「中小企業・ベンチャー企業で働く人と話すとコンプレックスを感じる」
- 「社外の人が結果を出してると焦燥感」
- 「意味があるとは思えない資料作りや意義のない仕事で精神的にきつい」
- 「薬を飲みながらだましだまし会社に通っている」
- 「中小企業・ベンチャー企業の圧倒的なスピード感とPCDAを真似出来る気がしない」
上記声を大きく分けると、「与えられる仕事の内容」が問題で、「自己成長を感じない焦り」「社外に対する劣等感」「現在環境に対する自己嫌悪」が発生しているようです。
大企業で起きている現象をモデル化してみます。
- 与えられる仕事の内容によって「エージェント(社員)」へ「フィードバック」される
- 「フィードバック」により「エージェント(社員)」に感情が生まれる
- 社外からの情報が得られる「開いた」仕事環境であるため、偶発的に「エージェント(社員)」の感情が変化する
- 多数「エージェント(社員)」同士の相互作用によって集団感情は生き物のように変化する
- 上記の現象が多数に、多重に発生していく事で「創発現象(退職など)」が発生する
大企業の与えられる仕事は制御されたもの?
上記モデルでは業務で与えられる仕事の内容が「エージェント」へのインプットとしてモデル化できました。
では与えられる仕事は、一極集中で制御されたものでしょうか?
仕事の方針は経営層により制御されたものと言えるかもしれませんが、仕事の内容は多層に階層化された会社・事業部・部・課・係と枝分かれするにつれ細分化され、実際の仕事内容は各階層の責任者が制御します。
つまり、与えられる仕事は一極集中ではないと言えます。
複雑系モデルの条件⑦⑧「全体を制御する中心的な存在なし」「秩序ある挙動と無秩序な挙動の複雑な組み合わせ」に該当する性質が見えてきますね。
【結論】大企業の悩みは複雑系
以上より、大企業の悩みは複雑系として扱えます。
複雑系としてモデル化すると、「与えられる仕事」を起点として大きな「創発現象(退職など)」が発生する構造が見えてきました。
これをコントロールするには、日々の「与えられる仕事」、「エージェント(社員)へのフィードバック」が重要である事に気付きます。
フィードバックは上司から部下だけでなく、部下から上司も含まれます。
その証拠に、下記書籍のようにビジネス書では「マイクロマネジメント」のような言葉も出てきています。
【参考書籍】マネジャーの最も大切な仕事 ― 95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力
所属長は取るに足らないように見える日々の出来事を大事に観察すること、という提言です。
この書籍の中でも、小さな出来事が巨大企業を破綻させた実話が描かれており、複雑系という学問用語は使わずに噛み砕いて現象が説明されています。
おわりに:大企業にも良い所はある
本記事のまとめ
大企業ではどうしても仕事がつまらない傾向があります。大企業は社会で大きな役割を果たすという性質上、若手社員にとっては企業が掲げる目的が遠すぎる上に業務が細分化しているため、これは仕方ないです。
同僚の退職や休職という決断は突然発生するように感じるかもしれませんが、実際には1つの事が原因であるということは極稀です。
本記事では社員の退職は日々の「与えられる仕事」、「エージェント(社員)へのフィードバック」の積み重ねから「創発」される複雑系であるというモデル化を行いました。
複雑系においてモデル化の正しさは「創発現象が少数のパラメータによって生き物のように出現する様子を再現できるか」という点で評価されます。
日々の「与えられる仕事」、「エージェント(社員)へのフィードバック」を大事にするという結論は「マイクロマネジメント」という単語で紹介する書籍でも言及されていました。
大企業という1つの大きな社会とも言える集団では、当事者達も気付かない創発現象が実際に良く発生しています。
本記事が大企業で長期的にうまく働いていく考え方の一助となれば幸いです。
大企業にもメリットはある
本記事では大企業の課題ばかりを挙げましたが、大企業にもメリットはたくさんあります。
会社がピンチになった時の安心感、部署がお金を稼げなくても役職や待遇が下がらない、新しい事をやる際にお金を使える、研修環境が充実している、等。
各個人が何を重視するかで選択できる時代になりましたので、情報や体験談を色々見て決断していくことで人生を楽しくしていけると思います。
本ブログで取り上げている体験談は下記にまとめています!
その他、大企業と中小企業について、エンジニア視点で違いを色々と記事にまとめているので良かったら読んでみて頂けると嬉しいです!
最後まで読んで頂いてありがとうございました!
おわり。
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この記事を書いた人 Wrote this article
kenshi2009
大企業と中小企業🏢で半分ずつ働いている40代の現役エンジニア🔧💻 この変わったキャリアで誰かの役に立ちそうなことを発信します。電気通信分野で量産開発と研究開発、ハードウェアとソフトウェア、プレイヤーとマネージャー、全て練り歩いてきました。ブログ歴も23年、奈良好き🦌 Twitterにほぼ毎日います!【SNS一覧:https://lit.link/kenshi2009】